“お帰り”と言われると、
僕は単純に嬉しいなぁと思います。
一人でだらだらしているのが好きな僕も、
一人暮らしの誰もいない部屋に
5年も帰り続けると、そんな風に思います。
一昨日のお昼の事です。
突然友人から電話があり、
“今東京にいるんだけど泊めて貰えないかな”と連絡が入ります。
寝ぼけた頭で“良いですよ”二つ返事したものの、
僕は夕方から終電まで家にいない事を思い出し、
笑いながら許してもらう。
そして昨日、僕が寝ている間に出かけていった友人の鞄が
そのまま置いてある事に気付き、
あー、そう言えば予定を聞いていなかったけど、
今晩も家にいるんだなと勝手に了解する。
合鍵も預けてあるし問題も無かろうと思う。
仕事が終えて、
JR中野駅に着くと、
彼女からメールが届く。
“いつ帰って来る?”
慌てて折り返し電話をする。
“今何処にいるの?”と僕。
“何処にいると思う?”と笑いながら返す彼女。
“後藤さんっていう人、いなかった?”
“いるよ”とまた笑う彼女。
“急いで帰ります”
“気をつけてね”と彼女。
電話を切って思わず一人で笑う僕。
お互いに見ず知らずの二人が僕の部屋にいる。
申し訳ないことしたなと言う想いも無くはなかったけれど、
それ以上に面白い事になったなと笑う。
ふと、着信履歴に珍しく弟の名前があったことを思い出す。
早足で歩きながら電話してみる。
“どうした?”と僕。
“いや、もう大丈夫なんだけどね”と弟。
“それで?”
“いや、電車遅れそうだったから兄貴のとこでも行こうと思ったんだ”
偶然って凄いな。
実際に弟まで来ていたら
もっと面白い事になっていたろうなと思いながら電話を切る。
家に辿り着き、
灯りの漏れる襖を横に引くと
友人と彼女がそれぞれ僕を迎えてくれる。
“お帰り”
“ただいま”
“一応週末だからこういう事態もあり得るかなと思ったんだけど、
考えてみたらタケ君のメールアドレス知らんしさ”と友人。
“来る前にメールしようと思ったけど、
結局携帯見れるの仕事終わってからでしょ。だから取り敢えず来てみたら”と彼女。
“申し訳ありませんでした”と僕。
“玄関明けたら電気がついてるでしょ。
そして知らない人がいるから最初部屋間違えたかと思った”と布団の中の彼女。
“顔見た瞬間さ、昨日写真で見た人だと思って、
一瞬のうちに今日行った新宿やら渋谷の漫画喫茶の場所、頭の中で探してしまったよ”
コタツに足を突っ込みPCの前に陣取る友人。
“私も、一瞬帰ろうかと思ったんだけど、
終電で来てたし結局づかづか上がり込んでしまった”と再び彼女。
“あぁ、そうだったんですか”と無意味に敬語になる僕。
所在なく部屋の片隅に立ち尽くす。
今現在僕の部屋の合鍵をもつ3人が、深夜1時過ぎに集う。
“あ、今ね、服飾事情についてあれこれ聞いていたんだけども、
テンポよく返事か返って来るから気持ちよくていいね”と友人。
“それは僕も同感です。
ところでハルに後藤さんのこと話した事ってあったっけか?”
“んー、どうだったかな”
平日木曜の深夜2時。
何するでもなく早々に寝るだけなんだけども、
なんだか僕自身はとても嬉しくて。
自分の部屋で、
自分の大切な友人や彼女なんかが、
僕ぬきで勝手に話をしている。
いや、迷惑かけてしまったなという自責の念と、
取り敢えず遭遇したのがこの二人で良かったという安堵と、
ここに以前合鍵を持っていた男として弟もいればなという少し残念な気持ちと。
こんな風に暮らしていければ僕自身はとても幸せだなと思いました。
けれども同時に、ただ周囲にはこうやって迷惑をかけ続けるんだなと。
でも好きなんだから仕方ない。
そんな一晩でした。
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